一体、入院して何が楽しいの?って普通は思うだろう。
一番大きかったのは、精十郎は入院して恋をしたのである。
たまたま入院した病棟が小児科病棟で、たまたまそこに同級生の女の子Kちゃんが入院してきたのである。
Kちゃんの病名やどんな症状があったか覚えてないが、はるばる他県から治療のために入院してきていた。
覚えているのは、Kちゃんは、特に手術などは必要ではなかったと思う。
薬を飲んでいたかもわからない。
正直、可愛かった。
すぐ仲良くなった。
でも、付き合うとかコクるとかそのときは、好きという気持ちをどうしていいかわからなかった。
だけど、毎日のようにKちゃんのところに遊びに行ったし、僕のところに遊びにも来てくれた。
Kちゃんの存在が大きいのは確かだったが、そのとき入院しているメンツがよかった。
高校生の女の子Nさんもいた。
Nさんは、太もも辺りを大怪我をして、大掛かりな金具を取り付けていた。
ちょっと見せてもらったことがあったが、金具が明らかに肉体から飛び出していて、あとでその金具を取り外さなければならない。
Nさんは、松葉杖で器用に歩いてきて、他愛のない話をしてよく僕と遊んでくれた。
また、歳の近いKちゃんとも同じ部屋で、ふたりは姉妹のように仲良しだった。
思い出深いのは、同部屋の野郎たちである。
野郎といっても、小児科なので、小学1年生と5年生の男の子。
便宜上、小学1年生がSくん、小学5年生がTくんとしよう。
Sくんは病室を入って右側のベッドにいた男の子。
落ち着きがないというか、やんちゃというか、明るいというか。
記憶では、足を複雑骨折していて、ギプスをはめていた。
遊んでいて、大きな岩が足に落ちてきたとか、だったと思う。
Sくんは、ベッドにいつもいた。
やんちゃ盛りで、いつもベッドの上を所狭しとばかりに飛び跳ねていた。
でも、Sくんは、自由に歩けない状態だった。
だから、しょっちゅう尿瓶の取替要請をナースコールしていた。
そして、TくんはSくんの隣にベッドだった。
Tくんは泣き虫で、でも明るくて、やっぱりやんちゃだった。
Tくんもずっとベッドの上で器用に用を足していた。
というのも、Tくんは、膝をベッドの上に固定された状態にあったからである。
原因は、事故かなにか、それは覚えていない。
この大部屋では、僕、Sくん、Tくんは、僕が退院するまで固定していた。
それで、SくんとTくんは仲良しなんだが、毎日のようにこれまた喧嘩もするのだ。
うるさいし、一応年上だった僕はそれを怒ったり、なだめたりする毎日。
さらに、これにKちゃん、Nさんも加わり、毎日大騒ぎなのだ。
入院しているのに、みんなの笑顔が絶えなかった。
いつしか、僕はみんなから「兄ちゃん」とか「お兄ちゃん」とか呼ばれるようになっていた。
年上であるはずのNさんも同級生のKちゃんも面白がって、僕をそう呼んでいた。
ちなみに、僕次男なんだけど。
つづく。