こんなことがあった。
授業中のこと。
僕は、一番前の席にいた。
科目は、大好きな音楽の授業。
何か先生に質問されると、ウズウズしてしまって、つい手を挙げて答えてしまう。
すると、緊張と興奮によって、手足が震え出し、しまいには居ても立ってもいられなくなり、気分が悪いと言って、教室を飛び出してしまう。
大好きな授業なのに。
嬉しすぎて、ドキドキしてしまったのだ。
また、高校デビューということで気が大きくなったのだろう、目立ちたがりにもなっていた。
共学だからそりゃあ、デートぐらいは経験した。
でも、たとえばコンサートを見に行くとして。
当然二人で並んで座る。
すると、好きな娘がとなりにいるという、嬉しさだけでドキドキしてしまう。
やがて、それは気持ちだけでなく、身体の震えに出てくる。
かなり丈夫な椅子でもガタガタ言い出す。
その音がますます気になりだし、震えはひどくなる一方。
女の子の会話どころではない。
また、これもトイレに行くといって、そのままコンサートが終わるまで立ち見するというハメになる。
誰でも緊張して震えることぐらいあるだろう。
嬉しすぎて、興奮して手足が震えることもあるだろう。
でも、それはことごとく、裏目に働き、僕はそのたびに落ち込んだ。
なんで僕だけこんな目にあうのか。
やるせない気持ちをいつも抱えていた。
普段の生活には問題なかったが、以前として身体を動かすことに関しては、いまひとつ不安だった。
だから、課外授業とか、山登りみたいな、激しい運動が伴う、みんなで寝泊まりするようなことは、ほとんど行かなかった。
また歩けなくなるのが怖かったからだ。
サボるんじゃない、行けないのだ。
一人ぼっちで、寂しかった。
その気持が余計に自分を落ち込ませた。
そんな高校生活も終盤にさしかかり、僕はなんとか卒業ができる安全圏にまでたどりついた。
すると、卒業してどうする?ということをいまさらのように考え出す。
進路指導とか、あったにはあったが、そのときは真剣に考えてなかったと思う。
仕事をする気は全くなかった。
となると、進学しかなかった。
しかも、大学のなかでも、有名大学に行くと言い出した。
ただでさえ、おちこぼれなのに。
赤点ばかりで、出席日数もギリギリだったのに。
これは、もしかしたら、後付けになるかもしれないが、大学に行けば何かが見つかる、もしくは、これまでの自分から変わることができるのではと考えたのだ。
といっても、僕の場合、身体のことを精神論的に打破できるのではないかと感じていた。
いわゆる、根性である。
頑張れば、報われるのだと思った。
僕は国立はさすがに無理と思い、私立文系の大学受験にのぞむことになる。
が、現実はそう甘くはない。
1回目の受験に失敗、僕は、社会人でも学生でもない、一番中ぶらりんの浪人生になる。
つづく。